ボールハンドリングやパス、シュートなど基本的なスキルのミスではなく、タイミングを逸した局面などで生じる「凡ミス」を改善したいと思ったことはありませんか?
この記事では、意識と下意識、脳がもたらすミスの正体のほんの一部を説明します。脳科学について書籍「MIND HACKS」を紹介しますので、あなたのトレーニングのヒントになりましたら幸いです。
凡ミス?
NBAのゲームでさえ、相手選手や審判、ベンチにいる人に向かって「ナイスパス」をする場面を目にすることがあると思います。ベンチでユニフォーム姿のまま立ち上がっているチームメイトへのパスならまだしも、姿がチームメイトには見えない対象に向かって、「ナイスパス」をします。
素人目には「プロもあんな凡ミスするのねー!」に見える光景でしょう。あれはなぜ起きるのでしょうか? 多くの場合、次のような状況で生じていることでしょう。
- インサイドにアタックしながら、3ptラインで待つシューターへのパス
- インサイドでボールを保持して、何をねらっているか分からないようにしながらのアウトレットパス
- 1on1を仕掛けながら、何かの事情で自分で攻撃することを急遽やめて、味方へパス
これらは、脳が忙しい状況で生じているとも言えるでしょう。脳が忙しい状況で(何度も練習して身に付いている動きである)パスをするときに生じています。
意識にのぼっているのは、インサイドへのアタック/ディフェンダーとの駆け引きであり、パスでないことは明らかです。
脳が忙しい状況から出されるパスでは、レシーバーが「誰それである」「同じユニフォームをきている」などは、レシーバーを識別する材料にしていません。そのため、「そこにいるはず」のレシーバーらしきモノに向かって「ナイスパス」を出します。速攻が崩れかけたときに、(オフェンスのようなムーブで)戻るディフェンスに「ナイスパス」が出されることも良く目にすることでしょう。
競技に熟練するほど、通常考える識別とは異なる方法で、プレイしていると思うのです。
意識、下意識
すべてのヒトは「意識にのぼらせることができるのはただ一つのこと」であり、それ以外は「意識を向けなくても、下意識で動作できる」ように日々練習しています。意識、下意識については、下記の記事をご覧ください。
凡ミスに見えるパスミスは、意識にのぼらせて「〜に動いた〜にパスをあげよう」と考えた結果ではないでしょう。意識にのぼらせて見ていたのなら、選手でもない人が味方のプレイヤーに見えるわけがありません。
繰り返し練習した動きの中で、注意を払わず(きちんと見ず)にパスを出しています。この場合、きちんと見ていないけど、ターゲットとして「何か」を頼りにしています。
その「何か」は、「白っぽいモノ」「(3ptラインに沿うように)円周上を動くモノ」「コーナーに降りていく物体」などのような見方だと思います。この見分け方を周辺視野でしていると思います。その結果、失敗すると間抜けな凡ミスに見えることでしょう。
凡ミスをしたくないばかりに、ターゲットをきちんと確認していては、パスが意識にのぼってしまいますので、インサイドへのアタックや1on1の駆け引きがおろそかになるので、本末転倒です。
注意の払い方や、見分け方が経験とともに洗練されていくのは、スポーツを行う上でとても楽しい過程です。このとき、試行錯誤的に行うばかりでなく、脳科学で分かっていることを知ることは、良いヒントになる場合があります。
MIND HACKS
脳科学が進歩したおかげで、分かってきたことがあります。トム・スタッフォード/マット・ウェッブ著「MIND HACKS」はとても興味深い内容ですが、特に「3章 注意」はプレイとの関係が深いため面白いです。
Hack #34 注意を向ける能力の限界
「3章 注意」の目次を引用
Hack #35 サビタイジング
Hack #36 物体の追跡
Hack #37 無意識の注意
Hack #38 後ろは振り返らない
Hack #39 注意の瞬き
Hack #40 変化盲
Hack #41 不注意による盲目
Hack #42 オオカミ少年は信じてもらえない
Hack #43 テレビゲームによる訓練
プレイと関連付けて、一部を紹介しましょう。
復帰抑制
「Hack #38 後ろは振り返らない」では「脳には、直前まで注意を向けていたものに再度注意を向けることを抑制する機能がある(復帰抑制)」ことを説明しています。そのメカニズムはさておき、バスケットボールで考えてみましょう。
例えば、「インサイドにパスを入れようと注意を払っていたターゲットから、(守られているのでパスを入れられないと判断し)一旦注意を外してしまうと、(注意を外した直後にそこが)オープンな状態になっても、それに気付かずにパスを入れるタイミングを逃してしまう」ことは、良く経験するのではないでしょうか。
パサーからすると「うっ、しまった(今頃空いたのかよー!)」と遅れて認識する感じですし、レシーバーからすると「空いたのになんで入れられないんだよー!」と感じる場面でしょう。
この場合、パスを入れられなかったことを悔やんだり、責めたりしても改善されません。注意を外した直後に再度注意を向けるのは、脳の働きからして無理があるのだから、「注意を外したこと」のみが問題であり、改善可能なポイントだと思います。
不注意による盲目
「Hack #41 不注意による盲目」については、イリノイ大学視覚認知研究室が公開している「View the “basketball” video」で試してみることができます。
短いテストなので、是非、お試しください。テストは「白いシャツのプレーヤー間でやりとりされるパスの数を数えてください」です。解答は、動画内で表示されます。動画は全部で1分半もありません。
ところで、被験者の約半数は、登場するゴリラに気が付かないとのこと。黒い物体は「切り捨てられる情報」として処理されるので、気が付かないらしいです。視覚系がゴリラに関する情報を破棄しなければ視覚短期記憶があふれてしまうので、パスの数を数えることに支障がでるそうです。
そのため、ボールがゴリラの陰に隠れても、透視しているかのような感覚でボールを追い続けて、ゴリラを無視します。
このことの裏付けとして、テストが「黒いシャツのプレーヤー間でやりとりされるパスの数を数えてください」ならば、黒い物体は「切り捨てられる情報」にならないので、ゴリラに気付く確率が大幅に上がるとのこと。
何に注意を向けるか、何を無視するかは瞬間瞬間に決められるのだが、その決定には、我々が自らあらかじめ設定している優先順位が大きく影響する。この優先順位の設定のことを心理学では「注意の設定」と呼んでいる。
P. 161 から引用
バスケットボールで考えると、選手個人が自らあらかじめ決めている、狙い所の見極め方が適切(注意と無視が程よくなされる)であれば、プレイの成功確率が高くなること(タイミングを見逃したり、見落としたりすることが減る)を意味しているのでしょう。この指摘は、実際にプレイする前、カラダの動作以前の問題であり、身体能力やサイズとは関係ない話であることに勇気づけられます。
本書『Mind Hacks』は、最新の脳科学を基にした解説と簡単な実験で、脳と心のはたらきを知る、まったく新しい脳の本です。たとえば、目には「盲点」が あり、その部分は何も見えないはずなのですが、いつもはそれに気づくことはありません。それは目が高速に移動し、脳がそこから得た映像を滑らかにつな ぎ合わせているからです。本書では長い間かけて進化してきたこのような脳のはたらきを、Webサイトの動画や身体を使った“ハッキング”で明らかにしま す。脳がどのように自分を「ごまかして」いるのか、それを知ったとき、世界 はまったく違うものに見えるでしょう。本書で扱うテーマは「脳の構造」「視覚」「聴覚」などの基礎的なものから、それらを統合して行われる「運動」 「推論」「記憶」、さらに実生活に必要な「他者との関係」まで。自分の頭の なかでは何が起こっているのかを知りたい方、心の成り立ちを知り、その知識を仕事に役立てたい方におすすめです。池谷裕二氏推薦。
出版社のサイト から引用
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